【書評】『最貧困女子』鈴木大介著 ~多くの人から見えていない最貧困女子について

『最貧困女子』鈴木大介著 を読みました。

最貧困女子

最貧困女子

 

 

まずは、本の内容紹介です。

今や働く単身女性の3分の1が年収114万円未満。中でも10~20代女性を特に「貧困女子」と呼んでいる。しかし、目も当てられないような地獄でもがき苦しむ女性たちがいる。それが、家族・地域・制度(社会保障制度)という三つの縁をなくし、セックスワーク(売春や性風俗)で日銭を稼ぐしかない「最貧困女子」だ。可視化されにくい彼女らの抱えた苦しみや痛みを、最底辺フィールドワーカーが活写、問題をえぐり出す!

引用元:Amazon.co.jp: 最貧困女子 (幻冬舎新書): 鈴木 大介: 本

 

『ルポ 中年童貞』を読んだ後に、女性側についても知ろうと思い読んでみることにしました。『ルポ 中年童貞』よりも『最貧困女子』の方が衝撃的でした・・

 

 

【最貧困女子 目次】

第1章 貧困女子とプア充女子

第2章 貧困女子と最貧困女子の違い

第3章 最貧困少女と売春ワーク

第4章 最貧困少女の可視化

第5章 彼女らの求めるもの

 

 

著者は、日本の階層社会は、「高所得層」「プチセレブ層」「中流層」がいて、その下に「低所得層」と「貧困層」、そのまた下にもっとも見えにくい「最貧困層」と分析しています。

http://ironna.jp/file/dc555abffc5389e5294c5d91a7f67e6e.jpg

引用元:http://ironna.jp/file/dc555abffc5389e5294c5d91a7f67e6e.jpg

 

そして著者は、多くの人から「最貧困」は見えないと述べます。
確かに僕もこの本を読むまでは、日本においては生活保護などのセーフティネットが充実しており「最貧困」に陥ることは無いと思っていました。

各階層のあいだには厚い壁が存在し、それが互いの世界を知ることを困難にしている。私は最貧困層の実態を著しましたが、高所得層やプチセレブ層の方から「先進国の日本でそんな酷い生活をする人がいるはずがない」といわれてしまうことがあります。セックスワークの世界でしか生きていけない女性のリアリティーが、どうしても伝わらない。「国民皆保険で、生活保護制度もあって、中学までは義務教育が保障されているこの国にいて、やむなく最貧困層に追いやられるなどありえない」と思うようですが、現実には「ありえる」のです。

引用元:社会が知らない「最貧困女子」の実態

 

 

しかし、著者は「最貧困」は日本に現実に「ある」と述べます。

まず、貧困に陥るのは低所得に加えて「三つの無縁」「三つの障害」に起因すると述べています。

「三つの無縁」とは「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」です。

「三つの障害」とは「精神障害・発達障害・知的障害」です。

 

「三つの無縁」と「三つの障害」により貧困に陥ったうえに、その貧困地獄の中でもがき、セックスワーク(売春や性風俗産業)の中に埋没する「最貧困女子」がいると述べます。

 

「貧困女子」のセーフティネットがセックスワークであることは、以前TVでの特集を読んで知っていました。

生活保護に加え、女性にはそういったセックスワークのセーフティネットがあるため、女性の「最貧困」について意識した事はありませんでした。

 

 

「最貧困女子」は、セックスワークの中でも底辺です。

最近では、低所得女子が昼間は正規の仕事をしながら、夜に週1回ほど風俗店で働くことも多いようです。彼女たちは「週1デリヘル嬢」となって、セックスワークの世界に参入してきます。

彼女たちは普通に昼間も働けるほどコミュニケーション能力があります。いわば「意識が高い」「質のいい」セックスワーカーとなります。そんな彼女たちが入ってくるようになれば、もともと存在していた「セックスワークをするしかない」女性の居場所はどんどんなくなります。

そうなると、例えば知的な障害をかかえていたり、やむにやまれず体を売っているような最貧困女子のような、プロ意識に欠けた人は、性産業の中心部からも排除され、だれも相手にしないような性産業の底辺へと押し込められていきます。

そう、彼女たちは "普通の風俗店" で働くこともできないのです。

 

 

そんな彼女たちの現状が『最貧困女子』ではありありと描かれています。

 

 

著者は、彼女たちに話を聞き、共通点を以下のようにまとめ、

1.親や親族の支援を得ることができない、もしくは親も養っている状況にある

2.メンタルを病んでいたり、不遇な生い立ちから教育を受ける機会を逸しており、安定した職につけない

3.公的・民間の支援に繋がりにくい事情を抱えている

4.非常に強い恋愛依存体質

引用元:大人のお仕事の光と影。峰なゆか『ギリギリモザイク』と鈴木大介『最貧困女子』

 

彼女達の問題は「決して、自己責任論で片づけれる問題は無く、社会全体としてフォローすべき」と述べ、幾つかの提案をしています。

  • 未成年の最貧困女子はまず小学生時代の居場所ケアによって、「売春ワークへ吸収する地域の縁」を立つ事
  • 家出状態に陥ってからは少女に対する親和性の高いシェルター作りが必要である事
  • 18歳以上の最貧困女子については、路上の私的セーフティネットのレベルアップや支援者との断絶を解消するために、セックスワークそのものに正常化・社会化することが必要である事

 

「稚拙な提言しかできず情けない」と述べながら、「まずは問題を可視化し議論のフィールドにあげ、様々なステージで場所で議論をして欲しい」と主張しています。

 

 

そして、あとがきで思いを述べています。

世の中で、最も残酷なことはなんだろうか?
それは、大きな痛みや苦しみを抱えた人間に対して、誰も振り返らず誰も助けないことだと思う。そんな残酷は誰もが見たくはない。道端で倒れて七転八倒している女性がいれば、多くの人が手を差し伸べるだろう。

だが、その女性が脂汗を拭きながら平然を装っていたら? 声をかけても「大丈夫ですから」と遮ってきたら? 睨み返してきたら? その女性との間に一枚の壁があったら? 人々は通りすぎるだろう。さらにその女性が何か意味不明なことを喚き散らしでもしていれば、人は目を背けて足早に歩き去るかもしれない。

助けてくださいと言える人と言えない人、助けたくなるような見た目の人とそうでない人、抱えている痛みは同じでも、後者の痛みは放置される。これが、最悪の残酷だと思う。

引用元:『最貧困女子』P.209

 

 

 

★ ★ ★ ★

 

僕はこの本を読んで僕は困惑しました。

最貧困女子問題をそもそも知らなかったため、その現状に衝撃を受けました。また、著者の言うとおり「自己責任だけでは片付けれるような問題」ではないし、解決すべき社会の歪みがあると思いました。一方で、彼女たちの気持ちを脳内で想像出来なかったからです。

 

著者のように「SOSを出せない人を放置してはいけない、SOSを検知できるような社会を」と述べる気持ちは想像できます。

しかし「SOSを出せない当人の気持ち」は想像できませんでした。

文字としても分かるし、状況も分かります。ただ、どうしても実感がありません。

 

彼女たちは普通の風俗店で働くこともできません。
図書館やインターネットを利用して物事を調べることもできません。
中には、役所の手続きが出来ないどころか、銀行振り込みすら出来ないような人達もいます。

 

 

彼女たちの気持ちがうまく想像できない僕は、おそらく、彼女たちに歩み寄ることも難しいでしょう。相手の気持ちが分からない状態での提案・提言は「それ、余計なお世話ですから」になってしまいかねないからです。

 

ただ、だからこそ、彼女達に歩み寄ることのできる著者の鈴木さんの行動や意見を応援したいと思いました。

 

著者もまずは現実を可視化することが大事だと述べています。

まず第一歩は、それがどれほど耐えない直視に堪えないようなものであっても、彼女らの置かれた現実を知ることからだ。

引用元:『最貧困女子』P.208

 

なので、僕も、ブログの記事を書くことで、一人でも多くの人に「最貧困女子」問題が世の中にあるという事を知ってもらうことで、鈴木さんの行動を応援したいと思います。

 

僕の記事を読んで、一人でも多くの人が、最貧困女子の悲惨な実情を知るきっかけになれば、幸いです。

図書館でも本屋でもどこでもいいです。興味を持った人は是非一度本を手にとって読んでみてください。

 

 

おわり

 

 

最貧困女子 (幻冬舎新書)

最貧困女子 (幻冬舎新書)

 
最貧困女子

最貧困女子