【短編小説】『僕は就職活動を証明しようと思う。』

彼は焦っていた。
大学4年だというのに、彼は無い内定だったからだ。

就職活動を始めた3ヶ月前。受けた会社は1社のみだった。
 
 
その会社に内定をもらうために彼は頑張った。
その企業の説明会には全て参加し、OB訪問を何度もし、一途にその会社だけを考えて就活をしていた。
思いはきっと届く、そう思っていたのに・・・
 

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彼の周りには、色んなタイプの就活生がいた。
  • 彼の様に一社だけを受ける友人A
  • 推薦でそうそうに内定を決めた友人B
  • 複数の会社にアプローチしとりあえずどこでもいいから内定が欲しいと嘆く友人C
  • 実家を継ぐため就活活動を全くしてない友人D
 
周りに色んなタイプがいたが彼は自分の就活スタイルを信じていた。友人Aと一緒に、陰で、友人Cをバカにしていた。
 
 
結局勤めるのは1社だけだ。複数受けても意味が無いだろう。
その時間があれば、第一志望の1社の企業分析をもっとしっかりしたり、自分の能力向上に時間を割くよ。
それが会社のためになり、自分のタメになることぐらい考えればすぐに分かるだろう。
 
 
そう信じていた。
そんな彼が無残にも、3次面接でお祈りされてしまったのだ。
 
 
彼は面接では全てを正直に話した。
自分のいいところも、悪いところも。
それが会社に対する誠意だという信念がある。
 
 
そして、お祈りされた。
3次面接の時に彼は必死にうったえた。
 
僕の夢を実現できるのは御社しかありません。
御社のために必死で働きます。
御社以外は就職活動してません!!
 
 
初めて本気の思いを言葉にしたので、途中で噛んだし、早口になり、多少しどろもどろなってしまったが「熱い思いはきっと伝わったはず」だと思っていた。
しどろもどろになる彼を見る面接官が怪訝そうな顔になったのが感じ取れ、それが一抹の不安になっていた。
そしてその不安が的中した。
 
彼は絶望していた。
その会社で働く事でしか自分の幸せを実現させる方法はないと思っていたからだ。
 
その会社じゃないなんて考えれなかった。 
 
ショックから数日立ち直れなかった。
周りの上手くいっている就活生が羨ましかった。
 
お前らより俺の方が絶対優秀なのに。
 
しかし、いくらそんな事を思っても内定が貰えるわけではない。
困った彼は本屋に行く事にした。本に救いを求めたのだ。
 
就職活動コーナーにはたくさんの本があった。
 
  • 『勝てる!就活』
  • 『就活論』
  • 『就活バイブル』
  • 『就活ルールズ』
色んなタイトルの本があった。
その中の一冊に
  • 『僕は就職活動を証明しようと思う。
という本があった。
 
横には「就活工学」と書いてあった。
 
「就活工学」??
聞いたことのない言葉だし「何か工学なんだよ」と一人で突っ込みを入れた。
 
とりあえず複数の就活本を購入し家に帰った。
 
 
パラパラと就活本を読んでいた。
 
  • 誠意をもって就活をしよう。
  • 熱い思いを伝えれば大丈夫!
  • 自分の気持ちを真っ直ぐ伝えよう!
そんな言葉がたくさんあった。
 
その通りやったんだよ!
でも、上手くいかなったんだよ!!
 
途中で、嫌になった。
 
お祈りされる前は、彼も同じような事を言っていた。
友人Aも同様に「自分の思いをしっかりと伝えれば大丈夫」と言っていた。
友人Aは1社しか受けていないが、第一志望に内定をもらったということで、後輩たちからは「神」と呼ばれていた。
後輩たちはそのノウハウ知りたいらしく、友人Aは今後輩の就活の相談をうけているらしい。
 
友人Aは今も「本気で会社に向き合おう、それが王道だ」と後輩に伝えているらしい。
 
友人Aにとってはそれが就活の王道かもしれない。
 
俺も就活が上手くいっていればそれが就活の王道と言っただろう。
俺も「神」と呼ばれ、後輩に王道として伝えただろう。
 
 
王道・王道と言っているが、所詮それは上手くいった人が、たまたま上手くいった方法を王道とよんでいるんじゃないだろうか。
そう思った。
ただ、上手くいかなかった彼にはそれは王道ではなかった。
 
本の内容も全て王道だった。
しかし、どの本にも彼を救うものはなかった。
 
 
精神論だけでなく、具体的な施策、例えば「就活の資格欄に書けるような資格をたくさんとる」といった、スペックの向上について書かれている本もあったが、いかんせんもう時間がない。
 
彼は諦らめかけていた。
 
 
最後に『僕は就職活動を証明しようと思う。』を読んだ。
 
 
 
この本は他の就活本とは一線を画していた。
 
  • 一度に複数の会社にアプローチしろ
  • 面接時には自分が言いたいことを言うのではなく、相手が聞きたいことを話す
  • 相手が望むような人材のふりをしろ
  • NLPで面接官を誘惑しろ
と他の本とは、ほぼ真逆の事が書いてあった。
この戦法は、彼が最もバカにしていた友人Cの戦法と同じであった。
 
友人Cは、100社エントリーし、30社面接をうけ、3社から内定をもらっていた。2社は聞いた事もないよく分からない中小企業であったが、1社は東証一部上場の誰もが知っている企業だった。
 
何であんな奴が内定貰えるんだよ
彼はそう思っていた。
 
しかし、彼にはもう時間がなかった。彼は就活工学を実践する事にした。
 
その時にまだ採用募集をしている会社を上から50社エントリーした。
 
 
そして、面接の結果をブログに残す事にしたのだ。
 
 
IT系中小企業 第1次面接
面接官:現場社員2人
会社ランク A-
 
まずミリオンダラースマイルで、面接官と和む。事前に調べたところこの会社は保守的らしい。よって、トラブルメーカーは好まないだろう。むしろ、型にはまる人間、ある程度の指示待ち人間が好まれるはずだ。一生懸命頑張るけど、上司には歯向かわず、使い勝手がよさそうなやつのふりをする。面接官の質問にバックトラックしながらラポールを形成する。
結果は、翌日には返ってきて次の面接にすすめるらしい。余裕だ。
 
そういった内容を投稿した。
 
実は、就活工学のコミュニティがあり、SNSでお互いに情報交換をしているのだ。
彼らに向けて書いた記事だった。
 
彼の記事は就活工学の人には受け入れられた。
就活工学の中には、外資系金融に受かる凄腕の人もいれば、まだ無い内定の内定童貞もいた。みんな和気あいあいとキャッキャッと楽しんでいた。
 
 
そんなある日、彼のブログは、ネット上で炎上していた。
 
炎上させたのは、会社の採用に携わる人のようだった。
つまり・・・・就活工学を仕掛ける相手だ。
 
  • このブログきもすぎ 就活工学きもすぎ
  • 小手先の技術で勝負するんじゃなくて本質で勝負しろよ
  • こんな事やってるから内定もらえないだよ
  • 内定がないやつのリハビリ工学オツ!
  • 無い内定の自己愛メンヘラ臭やばい
  • 僕は採用やってるけど、こういうやつ来たらすぐわかる
と言ったコメントが寄せられていた。多くが企業の採用関連に携わる人からだった。
 
何でこんなに叩かれるんだろうか・・
 
そりゃそうだ。
企業からすると「就活工学を使う本当はダメな学生を、間違って採用する訳にはいかに」からだ。企業からすると「本当にやる気があり優秀な人材」が欲しいのだ。
ただ、就活工学生のように「やる気があり優秀にみえる人材」が欲しいわけでは無いのだ。
 
ただ、少ない面接時間の中で判断しなければいけない。時には就活工学生を採用してしまうかもしれない。彼らはなんだかんだ言いながらそれを恐れているのではないだろうか。
 
 
また、同じ境遇の就活生の中にも反対するやつがいた。
  • ダセェ
  • 就活の頑張り方がずれてる
  • 普通にしとけばこんな事をしなくても内定をもらえる
  • 文書下手すぎブログ下手すぎ
  • 就活工学は宗教
 
 
彼はブログをやめようと思った。
批判されるためにブログを書いているわけじゃないからだ。
 
就活をする中で「こんな面接試験があって、こう答えたら上手くいった/行かなかったことを記録した就活体験記」や「自分で考えた就活論」を就活工学生の仲間に届けたかっただけだ。
 
 
それを横から覗いて叩かれるとは思っていなかった。
 
 
しかし彼はブログをやめなかった。
 
なぜならそういった批判など気にしなければいいという事に気づいたからだ。
真摯な批判は確かに受け入れるべきだが「バーカ」「キモい」のような子供の悪口を言うやつの意見なんて聞かなくていい。
 
そんなやつの意見を聞いて内定がもらえるかと言うと、決してそんな事はない。
 
一番大事なのは内定が貰えるかどうかなのだ。
 
それなら、就活工学生のブログを読んで、小手先の面接技術を1つでも覚えた方が、内定がもらえる可能性が高くなる。
 
 
彼は愚直に就活工学を使い続けた。
 
 
 
段々と成果も出だした。
そして、ある日ついに、内々定を手にした。
 
従業員30人程度の中小企業であり、企業ランクは高くない。
しかし、内定は内定だった。
彼の心に余裕が生まれた。
 
「内定をもらえた」この事実は彼を勇気付けた。
 
 
ブログも更新した。
 
 
就活工学でついに内定もらえました!
 
 
就活工学生からは賞賛のコメントをもらった。
アンチ就活工学生からはまた批判のコメントだった。
 
  • 就活工学で内定もらえるなんて、レベルの低い会社だ
  • 仲間うちで褒めあってキモい
 
しかし彼にはそれらの批判はもう響かなかった。
「もっといい会社からの内定が欲しい」としか思わなかったからだ。
 
 
はたして彼は優良大手企業に内定できるのか?
それとも、結局うまくいかないのか。
 
 
それは彼自身も分からない。
 
 
彼は仲間に向けのブログを書いた後、さらに15社にエントリーシートを提出した。
 
 
おわり
 

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【参考書籍】

ぼくは愛を証明しようと思う。 (幻冬舎単行本)

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