【書評】『イシューからはじめよ』安宅 和人著 〜バリューのある仕事と脱「犬の道」
僕が何度も読み返している『イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」』安宅 和人著 を紹介させていただきたいと思います。
社会人になってすぐ、まだ自分で仕事の仕方・重要度が分からない時に「新人は一心不乱に大量の仕事をして、その中から学ぶべき」「努力と根性があれば何とかなる」と考えていたため、大量の仕事をしました。土日もずっと仕事をしていました。今、思い返ししても、肉体的・精神的にも苦しかったですね。
ただ、大量の時間をかけて出した「アウトプットの質」は、所詮新人レベルのアウトプットでした。
なかなか成長せず、思い悩んでいる時に、先輩から薦められたのがこの本です。
とても勉強になり、ある意味「救われた」、そんな本です。
【イシューからはじめよ 目次】
はじめに 優れた知的生産に共通すること
序章 この本の考え方―脱「犬の道」
第1章 イシュードリブン―「解く」前に「見極める」
第2章 仮説ドリブン(1)―イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
第3章 仮説ドリブン(2)―ストーリーを絵コンテにする
第4章 アウトプットドリブン―実際の分析を進める
第5章 メッセージドリブン―「伝えるもの」をまとめる
おわりに 「毎日の小さな成功」からはじめよう
まず、序章 この本の考え方―脱「犬の道」が圧倒的に面白いです。この序章だけでも読む価値があります。
バリューのある仕事とは
「プロフェッショナルにとって、バリューのある仕事とは何か?」
こんな質問をいきなりされたらなんと答えるでしょうか?
確かに、そもそも「バリューのある仕事」が何か分かっていないと、「バリューのある仕事」はできませんよね。
ちょっと考えてみてください。
著者は「バリューの本質」は、「解の質」と「イシュー度」2つの軸から成り立っていると述べます。
参考:『イシューからはじめよ』P.25 図2 バリューのマトリックス
イシュー度:自分のおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ
解の質:そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せているかの度合い
「プロフェッショナルとしてバリューの高い仕事をするため」には「イシュー度」も「解の質」も両方とも高いアウトプットを出す必要があると述べます。
しかし多くの人が「解の質」ばかりに目がいき、「イシュー度」つまり「課題の質」に対して目が向いていないと述べます。
ビジネスとしてアウトプットを求められているのだから、いくら「解の質」が高くても「イシュー度」が低いと、受益者(顧客・クライアント・評価者)からすれば、そのアウトプットに価値はありません。
踏みこんではならない「犬の道」
「バリューのある仕事」ができるようになるためにはどうすればいいのでしょうか。
絶対にやってはならないことは「一心不乱に大量の仕事をして右上に行こうとする」ことです。「労働量によって上にいき、左回りで右上に到達しようと」というこのアプローチを「犬の道」と呼んでいる。
引用元:『イシューからはじめよ』P.27
参考:『イシューからはじめよ』P.27 図4 犬の道
成長は「意味あるアウトプットをきっちりと出すこと」からしか得られません。
・世の中で「問題かもしれない」と言われている事を100とすると、本当に解決すべき問題はせいぜい2つか3つぐらい
・新人の場合は、100の仕事のうち、質の高いアウトプットを出せるのは2つか3つぐらい
何も考えずがむしゃらに働き続けても「イシュー度」も「解の質」も高い「バリューのある仕事」ができるのは、1,000回〜10,000回に1回程度しかありません。
これでは永遠に「バリューのある仕事」は生み出せません。時間は有限です。貴重な時間を「バリューのない仕事」に費やし、そのうち段々と疲弊していきます。
つまり「犬の道」を歩むと、かなりの確率で「ダメな人」になってしまうと述べます。
「圧倒的に生産性の高い人」のアプローチ
圧倒的に生産性の高い人は、「犬の道」を歩まず、「イシューからはじめる」アプローチを取ります。
参考:『イシューからはじめよ』P.27 図6 脱犬の道
最初に、本当に解決すべき問題かどうかという「イシュー度」の見極めを行います。
そして次に「質の高い」アウトプットを出せるよう、絞り込んだイシューについて、検討・分析およびフィールドバックを繰り返し、「解の質」を上げていきます。
言葉にすれば「選択と集中」かもしれませんが、これが本当にできている人はどれだけいるのでしょうか?
昔の自分は全く分かっていなかったですね。
「振られた仕事は全てやる・振られてない仕事でも取りに行く」それが成長に繋がると思い、ただただがむしゃらにやっていました。
そして、仕事を「どう解決すべきか」「どれだけ早く解決すべきか」といった、解決方法ばかりに目がいっていました。
「どう解決すべきか」を知るために問題解決に関するビジネス書を読みあさり、「どれだけ早く解決すべきか」のために作業の効率化ばかりを考えていました。
ただ、当時の僕にはそれが「本当に解決すべき問題なのか」を考える事はありませんでした。
今思い返しても、完璧に「犬の道」ですね。
この本を読んで、自分の中でパラダイムシフトがおこりました。
まずは「仕事」・「問題」についてじっくりと考えるようになりました。そして、「仕事を選択すること」も「仕事を断ることも」できるようになりました。
昔のような長時間労働もなくなり、精神的にも肉体的にも楽になりました。
本当に出会えてよかった一冊です。
周りが「死ぬまで働け!」といった「犬の道」信者ばかりで、信頼できる相談相手がいない人は、疲弊して倒れてしまう前にこの本をヒントにして「考えて」欲しい。「悩む」のではなく、「考える」時に使ってもらい、大きくても小さくても、ひとつのまとまったプロジェクトを乗り切った時にもう一度立ち返って目を通していただければまた違った発見があると思う。
この本で紹介した考えが、少しでも、皆さんの生活を質的に改善し、1人でも多くの方が「犬の道」から脱することにつながれば、これほどうれしいことはない。
引用元:『イシューからはじめよ』P.240,241
著者のあとがきにもあるように、昔の僕と同じように「犬の道」を歩んでいる人には、ぜひ読んで欲しい本です。きっと何かの学びがあると思います。
おわり